父と子の戦い

| コメント(0) | トラックバック(0)
 この記事は右のカテゴリー「短編小説」に格納されています。出雲国風土記に出てくる話です。私なりにアレンジします。
「うわ、ぺっぺっ。お父さん、この温泉のお湯を飲むとすごく塩辛いね」

「そうだね。名前が海潮(うしお)温泉というぐらいだからね」

「なぜ、海潮温泉って言うの?」

「あれっ、知らないのかい? お父さんが小さい頃は、学校で地元の文化などを習ったんだけど、今の学校では教えないのかな? では、話してあげよう」

「わーい。僕、お父さんの話が大好きだ。お願い、お願い。」

******************

「お母さん、僕は、あんな親父は嫌いだ。親父なんかいなきゃいい」
「そんな悲しいことを言わないでおくれ。子供の頃はあんなにもお父さんのことが好きだったじゃないか」

 男の子は成長の過程で父親を乗り越えようとする時期がある。でも、ウノヂは、本当に子供の頃は、父親を尊敬し、そして愛していた。父のスガネは、地域で大きな権威を持ち、そして、何でもやってのける絶大なる力を持っていた。ウノヂは、父のスガネが、時折、湖の向こうから母を訪ねてやってくると、胸がわくわくしたものであった。実に誇らしい父であった。

 しかし、ウノヂが成長すると、スガネの身勝手なところばかりが目に付き、そして、その愛は憎しみへと変わっていった。

 ウノヂは、父のスガネから土地をもらいたいと思っていたが、スガネは、別の子供にその土地を譲ろうとしていた。我慢ならないウノヂは、ついにスガネに戦いを挑むのであった。

「父さん、この土地から出て行ってもらうよ」
「何を言うか、ウノヂ。ここの土地は、私のものだ。お前にどうこう言われる筋合いはない」

 二人は戦った。何日も何日も・・・。どうしても勝負がつかない。ウノヂはそこで一計を案じた。湖の向こう、出雲の海の水を、川に沿って押し上げていき、ついには、スガネを海水の中におぼれさせてしまったのであった。息子の勝利である。

 この海水が温泉に混ざり、この土地は「海潮(うしお)」温泉となってのあった。神たちの戦いで満たされた海水の温泉。別名は得潮(うしお)という。塩分が高く、飲んでも浴びても病を癒す温泉とされている。

******************

「なるほど、お父さん、だから、この温泉は塩からいんだ。神様の戦いの結果だったんだ」
「そうだよ。スガネは、スガネノミコトと言って、出雲市大東町須我の神様だったんだ。ウノヂはウノヂヒコといって、縦縫郡沼田郷(たてぬいのこおりぬたのさと:現在の出雲市平田町)の神様だったんだ。どうやら、海の部族と山の部族の戦いであったようなんだ」

「お父さん、古事記にも海彦・山彦の話しがあるね」
「そうだね、日本も人の住む世界だから、争いは必ずあったんだよ。でも、欧米や支那のように、勝った方が負けた方を虐殺したり、奴隷にしたりする歴史はないんだ。戦いが終わった後は、手を結んで生活していたんだよ。だから、神話という世界に残してその気持ちを伝え続けているんだ」

「日本ってすばらしい国だね」

「そうだよ。天皇陛下を英語でエンペラー(皇帝)と訳す人がいるけど、あれは間違いなんだ。天皇家の歴史は、征服の歴史ではないんだ。部族間の融合の歴史なんだ。だから、天皇陛下は、コンクワイヤ(征服者)ではなく、レプレゼンタティブ(民族の代表者)なんだよ」

「ふ~ん」

「それと、ウノヂというのを漢字で表すと、海(う)の霊(ぢ)となるんだ。つまり海の神様だね。」

「なるほど~」

「日本は、支那の文化を模倣してきたと支那人は言うけど、そんなことはないんだ。こうやって立派な独自文化を持っているし、支那の文化だって、取り入れてはいけないものは取り入れていないんだ」

「たとえば?」

「漢字もそうだね。入ってきてから、500年間も使っていない。独自文化のひらがなが花開いてやっと、漢字が有効になったんだ」

「それから?」

「科挙と纏足と奴隷制度と宦官制度は取り入れていないよ。でも、科挙は明治時代になって高等文官試験(今の国家公務員上級職試験)を導入してしまったんだ。これが官僚制度のはじまりになってしまったんだね。」

「纏足と奴隷制度と宦官制度って?」

「纏足っていうのは、女性が逃げ出さないように、小さい頃から足首から下に紐を巻いて、足が大きくならないようにしたんだ。奴隷制度はわかるね。明治時代、外国人が日本に来て、日本に奴隷制度がないのを見て感嘆したんだよ。宦官っていうのはね、皇帝に仕える男たちは、皇帝の女性に手を出さないように男性のシンボルを切り落とされたんだ。この宦官が力を持って、だいたいの王朝は滅んだんだ」

「なんか、こわいね。」

「日本の歴代天皇陛下は決してそんなことはしなかった。国民をわが子のように愛していらっしゃるからね」

「日本人に生まれてきてよかった。お父さん、またいろいろ教えてね。ありがとう。ねえ、卓球をしようよ。温泉にきたら卓球だよ」

「いいよ(笑)。」

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.soepark.jp/mot/mt/mt-tb.cgi/2289

コメントする

月別 アーカイブ

Powered by Movable Type 4.261

このブログ記事について

このページは、宝徳 健が2011年4月20日 07:37に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「Eの必要性」です。

次のブログ記事は「Eの必要性」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。