瓦礫の向こう側に

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 健は、建築基準法の改正内容を知りたくなって、建築審議会の答申書を読んでみた。

「おやっ?」
 そこには、『国民の生命、健康、財産の保護のため必要最低限のものとする必要がある』と記述されているではないか。

「な・なんだこれは、『最大限』の間違いじゃないのか。阪神・淡路大震災の被害を繰り返さないためにも、建築基準法は強化されるべきものじゃないのか」

 健は、誤植ではないかと疑ったが、もし、そうでないとすれば、明らかに矛盾する。

「もう少し調べてみよう」

 健は思った。

*************

「ねえ、お父さん遊んでよ。お父さん、最近忙しくて全然お休みの日がなかったじゃないか。ねえ、遊んで遊んで」
「そうだね。いいよ。何をして遊ぼうか」
「えっとね、キャッチボールでしょ。将棋でしょ。人生ゲームでしょ。それから、それから、えーっと」

 一人息子の真之は、久しぶりに休日で家にいる父親の健におねだりをするのであった。

「真之、そんなに一度にはできないよ。じゃあ、まずキャッチボールからやろう。準備をしておいで。お父さんの準備もお願いね」

 真之は、グローブとボールがおいてある場所に、一目散に走っていった。子煩悩な健は、目を細めてその姿を眺めていた。

「この子達の将来のためにも、しっかりと真実をつかんでおかないと」

 その夜、健は、もう一度建築審議会の答申書をよく読んでみた。そこには、建築基準法の改正が必要となった背景として、阪神・淡路大震災の教訓とは別に、「海外の基準・規格との整合性を図ること」「わが国建築市場の国際化を踏まえ、国際調和に配慮した規制体系とすること」と書かれてある」

 健は、愕然とした。なぜなら建築基準を見直す目的が、もし悲劇の再発を予防することにあるならば、それが海外の基準や国際規格と整合するなどといったことは二の次であるからである。日本は世界最大の地震大国である。世界の大地震の二割は日本で起きている。そこに、地震が少ない国の基準を当てはめることは、明らかに矛盾していた。

「いったいどういうことなんだ」

 健は、途方にくれながらも、さらに調査をすすめるのであった。(つづく)

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このページは、宝徳 健が2011年4月27日 08:28に書いたブログ記事です。

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