金閣寺(歴史的假名遣ひと正しい漢字)

| コメント(0) | トラックバック(0)
 つづきです。
 私は何の反發も感じないで、かう云はれると、自分が淋しく見えたといふ相手の感想から、或る安心と自由を贏(か)ち得て、言葉がすらりと出た。

「何も悲しいことあらへん」
鴨川はうるささうなほど長い睫を押しあげて、こちらを見た。
「へえ・・・それぢや君は、お父さんを憎んでゐたの?少なくとも、きらひだつたの?」

「おこつてなんいあゐへんし、きらひでもなし・・・」へえ、それでどうして悲しくないの?」
「何となくや」
「わからん」

 鴨川は難問に逢著して、草の上に坐り直した。

「それなら、ほかにもつと悲しいことでもあつたのかな」
「何や、わからへん」

と私は言つた。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.soepark.jp/mot/mt/mt-tb.cgi/5720

コメントする

月別 アーカイブ

Powered by Movable Type 4.261

このブログ記事について

このページは、宝徳 健が2014年10月13日 08:43に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「凛として 十八」です。

次のブログ記事は「ルーズベルトへの手紙(皇紀弐千六百七十四年十月十に日の日誌)」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。