戰國策　再１００（皇紀弐千六百七十八年七月弐日　四）

　秦の都に着いた荊軻は、まず、始皇帝の寵臣に千金の進物を贈りました。

　その寵臣は、始皇帝に、燕の国の使いが、『燕の王は、秦にはむかう気持ちはないこと』　『土地を献上したいこと』　『裏切り者の将軍の首を持ってきたこと』を告げて、謁見を取り計らいました。

　秦王(後の始皇帝。ここではもう始皇帝と呼んでおきます)は、ことのほか喜び、荊軻を宮殿に招きました。お供でついてきた秦武陽は、ガタガタふるえて使い物になりません。

　始皇帝は、「献上するという土地の地図を見せよ」と言いました。

　荊軻は、地図を取り出して献上します。その地図を広げて見せるときに、地図の中から、匕首が現れました。例の毒を塗った匕首(あいくち）です。荊軻は、左手で始皇帝の袖をつかみ、右手に匕首を握って突き出しました。刃先がとどくより一瞬早く、始皇帝は身を引きました。袖がちぎれました。始皇帝は、剣を抜こうとしますが、飾りものの剣で、長いので、なかなか貫くことができません。荊軻は、始皇帝を追います。

　えっ？　そのとき、秦武陽はどうしていたかって？　ブルブル震えるだけで役に立ちません。やっぱりこの男ダメですね。

　えっ？　始皇帝の部下達は何をしてるのかって？

　秦の国は、法律が厳しく、殿上にはべるものは、帯剣を許されてなかったのです。また、始皇帝を守る武官は、勅命がないかぎり、殿上にはのぼれません。まわりもあわてふためくばかりでした。　始皇帝の運命やいかに。つづく。