「お母さん、ど力のつぼのはなし、またして。」
「ウンいいよ。こんどはなあに。」
「さかあがり」
「あらあら、まだいっぱいになっていなかったのね。ずいぶん大きいね。」と、いいながら、お母さんは、いすをひいて、わたしの前にすわりました。
そして、もうなん回もしてくれた、「ど力のつぼ」のはなしをまた、ゆっくりとはじめました。
それはこんなおはなしです。
人がなにかをはじめようとか、いままでできなかったことをやろうと思ったとき、かみさまから「ど力のつぼ」をもらいます。
そのつぼには、いろいろな大きさがあって、人によって、ときには大きいのやら、小さいのやらいろいろあります。
そしてそのつぼは、その人には見えないのです。でも、その人がつぼの中に、いっしょうけんめい「ど力」を入れていくと、それがすこしずつたまって、いつか「ど力」があふれるとき、つぼの大きさがわかる、というのです。だからやすまずにつぼの中にど力を入れていけば、いつか、かな
らずできるときがくるのです。
わたしは、このはなしが大すきです。ようちえんのときはじめてお母さんからききました。そのときは、「よこばしご」のれんしゅうをしているときでした。
それからも、「一りん車」「てつぼうのまえまわり」「とびばこ」「竹うま」。なんでもがんばってやっているとき、お母さんにたのんで、このはなしをしてもらいます。くじけそうになるときでも、このはなしをきいていると、心の中に大きなつぼが見えてくるような気がします。
そして、わたしの「ど力」がもうすこしであふれそうに見えるのです。だから、またがんばる気もちになれます。
お母さんのいうとおり、この「さかあがり」のつぼは、ずい分大きいみたいです。「さかあがり」をはじめてから、もう二回もこのはなしをしてもらいました。でも、こんどこそ、あとすこしで、あふれそうな気がします。だから、あしたからまたがんばろうと思います。
お母さんは、「つぼが大きいとたいへんだけど、中みがいっぱいあるから、あなたのためになるのよ。」と、いってくれるけど、こんど、かみさまからもらうときには、もうすこし小さなつぼがいいなあと思います。
出典:朝日作文コンクール「子どもを変えた親の一言」作文25選 明治図書
コメントする