「商於の地六百里四方を手に入れたぞ」
臣下たちは、口々にお祝いを述べましたが、遅れてきた陳軫だけは、苦い顔をしてだまっていました。楚王が言いました。
「一兵も動かさず、一人の負傷者も出さず、商於の土地を手に入れたのだ。われながら見事であった。みな喜んでいる。そちだけは、なぜ一人で黙ってい るのだ」
陳軫が言いました。
「商於の土地は手に入りません。そればかりか、とんでもない事態になりますぞ。よろこんでなぞいられません。わが国が秦からチヤホヤされるのは、斉 と結んでいるからです。土地も手に入らないうちに斉との国交を断てば、わが国は孤立します。秦からチヤホヤされるのもそれまでのこと。かといって斉を断交 するまえに、秦が土地をよこすとは思えません。断交してから土地を要求すれば、張儀にだまされるのがおちです。だまされたと知れば、きっとご立腹になる。 西は秦と衝突し、北は斉と断交する。両国から攻め立てられること必定です」
楚王がい言いました。
「つべこべいうな。わしにまかせておけ」
楚王に意見を述べた陳軫ですが、受け入れられません。
楚王は、斉に使者を出して、国交を断ちました。その使者の帰国を待ちきれず、かさ ねてダメ押しの使者を出しました。張儀は秦に帰りました。そして、斉に使者をやって、ひそかによしみを通じました。一方、楚王は、約束の土地を受け取るべ く将軍を秦に派遣しました。ところが、張儀は病気と称して会見しようとしません。その報告を受けた楚王は、「張儀は、まだわしが斉との国交を断交していな いと思っているのか」と、ご丁寧にも、斉に勇士を派遣して、斉王を面罵させました。斉と楚が完全に手を切ったことを知って、張儀は、ようやく腰を上げ楚の使者と会いました。
さあ、ここからが張儀の外交戦略です。孫子の兵法にも「兵は詭道なり」とあります。戦争とはだましあいだ、という意味です。日本人は真面目すぎますから、外交においても、謀略というものを使いません。でも、相手が勝手に負ける状況をつくるのは、軍隊を出して戦争をして消耗をする事よりもよっぽど大 切です。今の、支那共産党なんか詭道だらけです。この戦国策には兵は詭道なりがたくさんあります。(つづく)
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