第3章:不朽の精神 - 「職家心得之事」
32代目の知恵
金剛組の永続的な哲学と運営指針の核心は、16の明確な教えからなる「職家心得之事(しょくかこころえのこと)」に集約されています 。
これらの原則は、32代目当主・金剛喜定によって、彼の「遺言書」の中で正式に記録されました 。この明文化は、喜定が再建に尽力した1801年の四天王寺大火災の直後、1802年頃に行われました 。この時期は、これらの原則が大規模な危機への直接的な対応として、将来の世代が同様の逆境を乗り越えるための指針として意図されたことを示唆しています。
喜定の詳細な建築図面や見積書が、彼の「遺言書」や金剛家の長い系図と共に保存されていることは、金剛家が技術的知識と倫理的知恵の両方を世代を超えて細心の注意を払って保存してきた姿勢を強調しています 。
「職家心得之事」が、大規模な再建期(1801年の火災後)に「遺言書」として正式に成文化されたことは、蓄積された知恵を抽出し、制度化し、将来の世代に効果的に伝達しようとする意図的かつ戦略的な努力を示しています。
これは、大きな危機が単なる苦難の時期ではなく、内省、核となる価値観の明確化、そして学んだ教訓の形式化のための重要な触媒として機能したことを示唆しています。これらの原則を書き記す行為は、一時的な経験を、会社の長期的な存続と繁栄のための具体的で永続的な指針へと変えました。
逆境から深く学び、その教訓を明確で実行可能な原則を通じて体系的に制度化するこの実践は、金剛組の驚くべき長期的な回復力において、しばしば見過ごされがちな根本的な要因です。これは、技術的なスキルを超えて、組織そのものを含む知識管理への積極的なアプローチを実証しています。
よく「事業承継をどのようにすればいいか」という相談があります。でも、まず「事業承継」と表現していることが間違いです。中小企業はどうしても「事業」が多忙のため「経営」をおろそかにしがちです。
金剛組のような経営者の深い造形は、これ自体が「企業承継」なのです。なので、まずやるべきは歴史DD(デューデリジェンス:精査)です。
承継とは 良いこと引き継ぐ ことでない 苦し経験 これを知ること
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