結論:不易流行の精神が織りなす慶雲館の未来
慶雲館の1300年を超える長寿の秘訣は、金剛組のような明文化された「家訓」の有無ではなく、その根底に流れる「不易流行」の精神に集約されます。
慶雲館にとっての「不易」とは、第一に「枯れることのない唯一無二の源泉」という物理的な資産と、それを最大限に活かす「全館源泉掛け流し」という徹底した運用哲学としての「温泉力」です。そして第二に、顧客の期待を超え、心から寛いでいただくことを追求する「おもてなし」の精神です。これらは、時代や環境が変化しても決して揺るがない、慶雲館の存在意義そのものです。
一方で、慶雲館は度重なる災害からの再建、経営体制の刷新、そしてコロナ禍における柔軟な運営変更(部屋数削減、食事専用部屋の導入、従業員の訓練)など、外部環境の変化に積極的に適応してきました。これは、形式に固執せず、本質的な価値提供のために常に最適な方法を模索し続ける「流行」の精神の表れです。
当主・川野健治郎社長の「旅館業以外の事業に手を出すな」という本業集中への強い意志と、「運鈍根」の精神は、この「不易」を守りながら「流行」を取り入れる経営を可能にしてきました。
慶雲館の事例は、現代の企業経営、特に伝統産業の持続可能性に重要な示唆を与えます。それは、企業が長寿を全うするためには、明文化された規範も重要である一方で、それ以上に、自社の「核となる価値(不易)」を明確にし、それを守り抜くための「生きた哲学」を組織文化として醸成し、同時に環境変化に柔軟に対応する「適応力(流行)」を持ち続けることの重要性です。慶雲館は、その「温泉力」と「おもてなし」を核とした「不易流行」の精神を通じて、これからも日本の温泉文化と長寿企業の歴史を紡ぎ続けていくことでしょう。
こまで、千年企業の三社を紹介しました。金剛組、池坊華道会、慶雲館です。手法は三者三様でした。その中で、不易として突出した「こだわり」があり、加えて変化を受け入れる柔軟性である「流行」、そして不易と流行がその流れを見事に一つにしていました。繰り返し書きますが、私は千年企業の一つである、京都のお団子屋さん一文字和助がなぜ一千年も続いているかが昔から不思議でなりませんでした。でも、この千年企業の研究を通して分かったきました。「とことんこだわった不易の徹底追求」「環境変化に柔軟に対応する流行」「不易と流行がバラバラではなく一つに存在する」の三つです。もう一つ加えるとしたら、全部非上場です。上場を悪いと言っているのではなく、千年×売上と(例えば)50年×売上のどちらを求めるかですね。我が皇室も「万世一系」です。
明日から、善吾楼(旅館業)です。養老二年(718年)創業。1307年の歴史です。石川県の小松市にあります。
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