千年企業⑪:金剛組10最終回(皇紀弐千六百八十五年 令和七年(2025年)八月朔日 金曜日)3

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平成十七年(2005年)九月二十日に開始したブログの累計記事が、現在10,321通目です(後で数えなくていいように)。

  世界最古の企業である金剛組のルーツは敏達天皇七年(西暦578年)に遡り、これが同社の世界で最も長く存在する企業として位置付けています。その創業は多くの国家や主要な世界宗教の成立よりも古く、その歴史的深遠さを示しています。  

 繰り返します。千年企業は、まさに不易流行(不易流行:永く続く大切なものをしっかり守り、新しいことを取り入れる)という我が皇室の精神と申し上げました

  新しいものを取り込むときは、不易を徹底的に検証することが大切です。不易と流行は分離するものではなく、積み上げてきた歴史である不易と新時代からやってきた流行が流れを一(いつ)にすることを当事者たちが創っていくことだからです。

 例えば、538年に支那大陸から漢字が我が国に伝来しました。しかし、皇室は漢字を400年間〜500年間使いませんでした。

 我國の在り方と新しい漢字の流れが一(いつ)になる
「万葉仮名」ができるまで。

すみません。この最初の部分はとても大切な肝なので、毎回書きます(初めて読まれる読者も多勢いらっしゃるので)

 このブログの中で何回か「欧州でも国家の概念ができたのはこの三百年〜五百年」と申し上げました。それまでは? 確かに存在はその何百年前からありましたが、所詮は貴族の「うしはく(すべて自分の所有物にするという支配形態)」でしかなかったのです。それが三百年〜五百年に国家として目覚めて、第一次世界大戦で固まりました。

直接的な類似点:憲法の知恵と「職家心得之事」および金剛組の実践との関連

 

 聖徳太子の十七条憲法に明記された原則と、金剛組の「職家心得之事」の間には、驚くほど深い類似点が存在します。これは、日本の社会を何世紀にもわたって支えてきた共通の文化的・倫理的基盤を反映しています。


  • 和とチームワーク:
    • 憲法: 冒頭の最も有名な条文「和を以て貴しとなし」は、統治体内部の統一と派閥主義の抑制を強調しています 。  

    • 金剛組: 「職家心得之事」は、部下や弟子を「深く情けをかけ、穏やかな言葉で召し使いなさい」と助言し 、「なにごとも、他人と争うな」と明示的に述べています 。38代目女性棟梁よしゑのリーダーシップは、宮大工への配慮とチームワークの重視で知られていました 。さらに、専属の宮大工集団である「匠会」は、「たがいに教えあい、学びあって」 、「切磋琢磨し」 、複雑なプロジェクトの実行に不可欠な調和のとれた協力的な環境を育んでいます。  

    • 両方の基本的なテキストは、組織の効果的な機能と長期的な安定のために、内部の結束、敬意ある人間関係、そして集団的な努力が極めて重要であることを強調しています。金剛組の場合、これは複雑な建築プロジェクトを実行するために職人間の調和が最優先される、実践的なチーム管理と高度に専門化されたスキルのシームレスな伝達に直接結びついています。

  • 信と正直:
    • 憲法: 「信は義の根本なり」は中核的な教えであり 、「真心をこめよ」 と、すべての行動における誠実さの必要性を強調しています。  

    • 金剛組: 「職家心得之事」は、職人に「正直な見積りを書きつけ、差し出しなさい」と直接指示し 、「諸事万端取引してくれる方々へは無私正直に対応しなさい」と述べています 。同社のより広範な企業哲学は、「堅実、分相応、誠実、勤勉、実直」 と特徴付けられています。  

    • これは直接的かつ極めて強い類似性を示しています。古代の国家法典と企業の内部倫理の両方が、統治であろうと商取引であろうと、すべての行動の絶対的な基礎として誠実さと真実性を置いています。金剛組の場合、これは顧客、サプライヤー、従業員との透明で公正な取引につながり、数世紀にわたって長期的な信頼と非の打ちどころのない評判を築き維持するために不可欠です。

  • 公私混同の排除:
    • 憲法:私心を去って公の事を行うのが臣たる者の道である」は、国家への無私の奉仕を明確に提唱しています 。  

    • 金剛組: 「職家心得之事」は、同じ政治的用語を明確には使用していませんが、同社の創業目的(国家のための公共寺院の建設)、数世紀にわたる文化遺産の守護者としての役割 、そして「過剰な利益」の明確な禁止 は、この原則と暗黙のうちに一致しています。髙松建設が金剛組を純粋な経済的相乗効果よりも文化財保護の価値のために救済したという事実 は、公共の利益に対するこの社会的優先順位をさらに強調しています。  

    • それぞれの文脈(国家と企業)のために具体的な用語は異なりますが、個人または企業の貪欲さよりも集団の幸福(国家、寺院、または文化遺産)を優先するという根底にある原則は、驚くほど一貫しています。金剛組の歴史は、その創業から、利益追求よりも公共の目的と奉仕を重視するこの哲学が深く根付いていることを示しています。これは、企業の存続が、単なる経済的合理性だけでなく、より広範な社会的・文化的価値に支えられていることを示唆しています。

  金剛組の1400年以上にわたる歴史は、単なる企業の存続を超えた、日本の建築文化と精神的遺産を守り伝える壮大な物語です。その比類なき長寿の根底には、聖徳太子の十七条憲法に深く通じる、時代を超えた普遍的な経営哲学が息づいています。


  創業時の聖徳太子の勅命による四天王寺建立は、金剛組に単なる商業的利益を超えた公共性と精神性への奉仕という使命を植え付けました。この初期の方向性は、品質と職人技を最優先し、短期的な利益追求よりも長期的な信頼と評判を重視する企業文化を育みました。四天王寺の「お抱え宮大工」としての地位と「正大工職」の称号は、安定した基盤と、高度な技術を世代を超えて継承し、洗練させる環境を提供しました。戦乱や自然災害による四天王寺の度重なる焼失と再建は、金剛組にとって技術を磨き、経験を蓄積し、組織としての回復力を高める機会となりました。これにより、彼らの職人技は実践を通じて有機的に進化し、複雑な伝統工法を継承する能力が確固たるものとなったのです。



  明治維新による神仏分離令は、金剛組の安定した庇護モデルを崩壊させ、市場競争への適応を余儀なくしました。これは厳しい試練でしたが、同社は四天王寺以外の寺社建築へと事業を拡大することで、新たな道を切り開きました。昭和初期には、初の女性棟梁である金剛よしゑが、その卓越したリーダーシップと適応力で会社を存続の危機から救い、伝統的な継承の枠を超えた能力主義の重要性を示しました。そして2005年の経営危機は、バブル期の過剰な利益追求という「職家心得之事」からの逸脱が招いたものであり、核となる哲学への回帰の重要性を浮き彫りにしました。髙松建設による救済は、金剛組が持つ無形の文化的価値と、その存続が日本社会にとっての誇りであるという認識によって実現しました。



  金剛組の経営哲学「職家心得之事」は、32代目金剛喜定によって編纂されましたが、その内容は聖徳太子の十七条憲法の精神と驚くほど多くの共通点を持っています。「和」「信」「公私混同の排除」「議論」「能力主義」といった憲法の原則は、「職家心得之事」における人間関係の調和、商取引の誠実さ、過剰な利益を求めない姿勢、そして継続的な学習と自己改善の重視に色濃く反映されています。これらの原則は、金剛組が単なる技術集団ではなく、倫理的かつ人間的な成長を重んじる組織であることを示しています。



  金剛組の歴史は、伝統を固守しつつも、変化に柔軟に適応する能力、そして何よりも、古代から受け継がれる普遍的な倫理観と長期的な視点に根ざした経営哲学が、いかに企業の永続性を可能にするかを示す、生きた証拠と言えるでしょう。それは、単に生き残るだけでなく、時代を超えて進化し、日本の文化と技術の粋を守り続けるという、深い使命感に支えられた類まれな企業実践の物語なのです。


  明日から、慶雲館です。世界最古の宿泊施設です。


永く永く 険しい道のり 乗り越へて 遠き未来へ わらに続くは

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このブログ記事について

このページは、宝徳 健が2025年8月 1日 04:38に書いたブログ記事です。

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